代振り

合唱指揮さんが教育実習で、某歌劇団の合唱追い込み練習の代振りに行ってきました。
相手は練習時間の足りていない新入団員ということもあって、参加人数は「主催者側発表で」控えめ。まあ、参加できなかった人々の多くは「大道具も追い込み」「キャンパスが違う」「予定が合わない」等々、具体的かつやむをえない理由が個別にあったのでしょう。
お相手が新入団員なので、音の間違いや歌詞の中で強調すべき単語といった実用的な話もしましたが、それだけでなく、歌うことの楽しみ方を始めとした普段の練習ではなかなか伝えきれないことにも言及して先輩ぶってみました。口やかましくウザったい先輩でごめんなさい。
何を話していたかと言うと、簡単に言えばこんなものです。

私たちが現在使っているボーカルスコアは、下に英語でも歌詞が書かれている。残念なことに、この英語の歌詞も、また日本語の対訳本も、必ずしも原語のニュアンスを逐次に訳しているわけではなく、むしろやや控えめな表現に後退している、従って、自分が歌う箇所だけでも、時間があったら辞書を使って調べてみると歌を考えるときに効果があるかもしれないというように、「お上手に音を出せばよい」というわけではない。

余計な入れ知恵にならないとよいのですが、一心不乱に同じ歌を同じ調子で歌い続けても面白くなかろうと思って。もちろん、技術は大切ですが、技術を向上させる動機になってくれるといいですね。


個別具体的な訳について話を始めるとキリがないので、休憩中にレスコー(ヒロインの従兄弟で遊び人)の性格についてこんな話をしました。
一幕、宿屋の前でレスコーは、合唱の歌の合間に、仲間の近衛兵とこんな会話をしている。

レスコー「従姉妹と待ち合わせてから後で追いつくので先に行ってくれ」
近衛兵 「覚えててくれよ!」
レスコー「俺に恥をかかせるな!失礼な」
近衛兵 「レスコー!」

一方、四幕の賭博場で、気がついたらオケラになっていたレスコーは、賭博師たちにこう言っている。

「口約束で*1博打をさせてくれ!俺は誠実な人間なんだ!」

これら二例からして、レスコーは約束手形を乱発して踏み倒すタイプの人間だと推測できます*2。まあ、一族の名誉を!といいつつ賭博に明け暮れる時点で頭の悪いキャラだという見立てはできます。意図的かは知りませんが約束を守れない人間だ*3というレベルまで、ちゃんと読み解くとわかりますよ、と言うお話。原作でもそこまで言及されていませんしね。
そうやって台詞を読んでいくと面白いよ!という薀蓄の題材に、マノンではなくあえてレスコーを選んだのは、合唱との絡みが多いので一番身近なキャラクタだったからです。台詞を読み、そこからキャラクタの肉付けをするという楽しみ方を、今とは言わずいつか彼らがしてくれるとうれしいです。

*1:金を借りてくるどころか、ツケで賭ける人間なんて見たことないが。

*2:ちなみに、四幕の台詞は、英語の歌詞でも日本語の対訳本でも「俺は誠実なんだ」とは書かれていない。

*3:レスコーが歌う歌は、軒並み頭の悪そうなフレーズがどこかに入っているので、クルクルパーに近いという気はしますが。