アメリカの先生たち

ただ今、アメリカの小中高の学校教師が12人ほど東京に研修に来ています。
なんでも、日本に1ヶ月くらい滞在して、日本の教育や文化について研修を受け、アメリカでの教育に生かそうというプログラム
*1なのだそうです。その研修の一環として「日本の学生とも交流したい」という希望が先方から来たのですが、企画が出てから期日まで時間が無いとかで、学生の国際研修協会であるIAESTEに声がかかったらしいのです。
うちの教授がそこの幹事だか何かをやっている関係で、交流会に私まで駆り出されてしまったという次第。
日時までは事前に聞いていたのですが、何を話すかについては、昨日突然教授に紙を渡されて、初めて知りました。というか「どうせ自分の経歴とか日米間の交流についてとかの雑談だろ」と高をくくっていたので、内容については今朝まで確認していませんでした。
そんなわけで、何の気なしに内容について記された紙を読んだところこう書いてありました。
「日本の学生は、自己紹介、日本の将来、日本社会・経済への貢献、キャリア・プラン、日米関係、現代の日本人学生の流行、米国人に知ってもらいたい日本文化・社会について語ります」
・・・多いよ!ってか重いよ!
いや、自己紹介程度ならいつでもいくらでもできるのですが、延べ2時間程度の中にこれだけの話題を盛り込むのであれば、一つ当たりはかなり圧縮せねばなりません。英語で説明できる範囲でかつ、向こうの先生方が日本に帰ってから自分の生徒たちに話せるようなことで無ければなりません。さー大変だ。


で、だいぶ身構えて行ったところ、交流会とはいいながら、その実グループディスカッションでした。3グループくらいに分かれて先生方4人に対して学生が3人くらい。学生のうち1人は留学生といった塩梅。
先生方のプロフィールは「マサチューセッツの美術教師」「テネシーの数学と日本語の教師」「カリフォルニアのResource Specialist*2」「ニューヨークの4年生の担任*3」で、これに対して学生側は「私」「一橋の法学部生」「ドイツからの留学生」という面子でした。
お互いに軽い自己紹介をしたあと、早速議題に入ります。
とはいえ、学校の先生が相手なので、主導権は向こう側。質問するのは向こう側です。先生が質問上手、聞き上手というのは楽ですね。残念ながら、日本の学生は報告上手ではあっても質問が下手なので会話のキャッチボールが難しいです。「そっちの国ではどうなのですか」と聞こうと思ったら「アメリカでは××なんだけど、日本ではどう?」と先に答えを言われてしまったりなんだり。
日本社会、経済等については門外漢なので簡単に済ませて一橋の人に任せきり。キャリア・プランについては自己紹介のついでに言わされました。
日本の学生の流行については学生側が誰もまともな回答できないという失態。留学生と私と一橋大じゃムリがあったか・・・ある意味こういう「広範な流行に無関心」というのがトレンドなのかもしれません。見かねた先生側が「マイケル・ジャクソンの死についてどう思う?」という質問を飛ばしたところ「特に日ごろは興味のないものなのに、いざしなれると残念だ」と上手いこと一橋の人が返してくれて助かりました。ちなみに、この回答は先生方の満足に達したらしく「実は私もなのよ〜」みたいに盛り上がってくれました。


だいたい、当初のテーマを消化した後で、先生方が目下の関心ごとについて(むしろより熱心に)聞いてきました。
以下はマサチューセッツの美術教師さんと私の会話。

先「日本にも停学とか留年という制度はあるのか?」
私「ある」
先「私は常々思うのだけれど、そもそも勉強したくない生徒をわざわざ学校に来させなかったり、もう一年在籍させる意味はあると思うか?」
私「無いと思う。勉強したがらない生徒は何を言ってもやらない。そういう人たちを在学させる意味はないと思う」
先「そーよねー!ぶっちゃけ私もそう思うわー」
(あまりのぶっちゃけっぷりに、残りの3人の先生がひっくり返る)
私「中学校までは勉強しなくても出席日数さえ足りていれば勝手に卒業できるし、全く何の勉強もできない人でもナゼか高校に入って卒業するんですよ?それってそういう生徒に何か意味があるんですか?」
先「そーよね!あんたは分かってる!こっちの3人はわかってないわ」

正直な話、多少とも勉強しないくせに学校に来る人って、勉強したい人にとっては迷惑だとは思います。勉強したくてもできないとかならともかく、ただいたずらに家と学校を往復するばかりの日々を過ごさせるくらいなら、働きに出したほうが良いのではないでしょうか。少なくとも、高校全入、大学全入という状態が社会にとって有益だという根拠は、私には見受けられません。
他にもこんなことについて話しました。2時間分を覚えているわけではないので、印象深かったことについて。なお、一橋の人も結構話していたのですが、記憶が曖昧なので割愛。ドイツ君も割愛です。二人とも、私以上にきちんと喋ってはいたのですが。

先「アメリカは各国からの移民が多いために、学校内、クラス内での言語の統一が図りづらい」
私「必ずしもそうとは言い切れない。日本にもブラジルからの移民が多い地域などがあるが、その地域の学校では児童の一部が日本語を話せず苦労していると聞いた。日本にとっては新しい問題だが、アメリカでは昔からある問題だ。日本の教師をアメリカに研修に出すと良いかもしれない」
先「アメリカでも統一した効果的な方法があるわけではない」

先「日本にも養護学級のようなものはあるのか?」
私「ある。私立校には無いが、公立校にはまとめて1クラスとかの単位で存在するものもある」
先「そういうところとの一般のクラスの交流というのはあるのか」
私「残念ながら私は私立校出身なのでよくわからない(一橋の人も知らないらしい)が、あまり無いのではないか*4

先「日本では歴史をどう教えているのか?先日、博物館*5を見に行ったが、戦争の悲劇についてはあまり触れられていなかった。残念ながら、アメリカの歴史でも太平洋戦線については読み飛ばされていて、主に欧州戦線の話に重点が置かれている」
私「とにかく、20世紀の歴史は日本史、世界史共にあまり重視されていない」
先「まだ事件がおきてから時間が十分経過していないせいかもしれないね」

先「日本でも学級崩壊はあるのか?」
私「ある。私立校のように親のモラルが高い学校ではあまり無いが、そうではない学校では荒れていると聞いた」
先「ごくせん*6のような状態もありうるのか?」
私「あれはフィクションだと思うが・・・」
一「実際にあるところにはあるかもしれない」
先「アメリカでは実際に存在する。日本ではそういうときにどうしていたのか?」
私「数十年前であれば教員が腕力に訴えることもあったが、現在ではそうは行かない。教員は効果的な対処法を見つけられていないようだ」

などなど、海の向こうの先生たちも、同じような課題に頭を痛めていることが分かりました。
一方で、先生方は勉強熱心であり、偏見のない懐の広い先生が多いんじゃないかとも感じました。勉強したくない奴を学校に入れるなと言っていた先生も、生徒自身の人生にとっての有益性を考えてのようでしたし。日本の先生だと自分の考えを伝えることや興味あることにしか熱心になれない人が多いと私は思うのですけど、向こうの先生はこちらの話を聞いた上で反例や意見を述べる点が興味深いです。
ただ、話題の移り変わりが意外と早く、自分の考えを英語でまとめきる前に次に飛ばれて往生しました。
本当ならばもっと話し合いたいところなのですが、ちょうどようやく話題の波に乗れたばかりのころに時間が来てしまい終了。
最後に記念写真とビデオのインタビューを受けて終わり。ビデオは向こうの生徒たちに見せるのだそうです。ディスカバリーチャンネルに売り飛ばされない限り日本で公開されることはないと信じております。



そんなわけで、あっという間のヘビー級2時間半英語漬けでした。
個人的には、自分の英語のカツゼツが超絶に悪くなっていてびっくりでした。
練習不足だなぁ・・・楽しめたし、向こうも楽しんでもらえたので今回はよしとするか。次はもうちょっと上手いこと喋れるようになっておこうっと。

*1:日本国際実務研修センター(JCIPT:Japan Center for International Practical Training)と、米国国際実務研修協会(AIPT:Association for International Practical Training)という研修斡旋機関みたいのがあって、そこの企画らしい。

*2:って何だ?

*3:クラスは今どうなってるの?

*4:あったらごめんなさい

*5:遊就館のことか?

*6:本当にごくせんを例に出した