司会と観客と

今日は輪講の司会でした。100分の講義時間の間に、発表者は3人。今日のテーマは、修士1年の人たちが、それぞれある分野の最新の研究動向を調べてきて発表するというもの。博士の学生が持ち回りで司会をします。
司会者の役目は、タイトルと発表者名の読み上げと、発表後の質疑応答の仕切りです。質問が出なかった場合に自ら質問して時間を稼ぐ、というのもあります。
電気系というのは、半導体のはなしからソフトウェアの開発までカヴァーする領域なので、発表の内容もかなりバラバラです。私が司会を担当した回は「微小回路の容量測定*1」「遺伝子オントロジー*2」「3次元回路*3」の3本立て。・・・自分の研究分野とかすりもしないぞ。
しかも、発表直後は例によって誰も質問しない。
「それでは質疑応答に移ります。何か質問のある方は……では、司会のほうから」
もはや決まり文句のレベルです。
まあ、無事に終われてよかったよかった。



夕方は、NHKホールに行ってメトロポリタン・オペラの来日公演を見てきました。ドン・カルロ
地震原発の都合で主要キャストが変更になってしまい、プログラムとは別に小冊子が配られる始末。指揮者とドン・カルロとエリザベッタとエボリ公女が別人になったので、もはや別の公演(笑)
ドン・カルロには様々なバージョンがありますが、今回の公演は1886年のイタリア語5幕版でした。5時間近い長丁場。


1幕:16世紀中盤、フランスとスペインは戦争中であったが、フォンテンブローの地で講和しようとしている。
スペイン王ドン・カルロは父フィリッポ2世に内緒で外交使節団に紛れ込んでいた。彼はフォンテンブローの森でフランス王所エリザベッタに偶然会い、一目ぼれしてしまう。もっとも、講和の条件に王子と王女の結婚があったらしく、互いが将来の夫婦と知ると、それも手伝ってか意気投合*4
惚れた相手は将来の妻だった。めでたしめでたし…のはずが、後から来た使者によると、講和の条件が変わってエリザベッタは現国王のフィリッポ2世に嫁ぐことになるのだという。このままでは妻と夫のはずが義母と義子になってしまう!
躊躇うエリザベッタに対して、平和を望む農民たちが、この申し出を引き受けるよう請願する。リザベッタは承知してしまう。平和の到来に喜ぶ合唱に対して、悲劇を嘆く王子と王女*5


2幕:スペインのサン・ジュスト修道院*6
ドン・カルロは義母となったエリザベッタへの想いを捨てきれず、修道院で祈っている*7。そこへ、ドン・カルロの友人、ロドリーゴがやってくる。
「何を悩んでいるのだ、わが友、ドン・カルロ*8
「実は…義母さんに惚れてしまって…」
「えっ…」
「まずいだろ…いくら義理だっていってもさ…」
「そんなことより友よ、疲弊したフランドルに行って民衆を救うのだ!」
「よしわかった!フランドルに行って民衆を救うよ!ロドリーゴ!」
「ありがとうドン・カルロ!永遠の友よ!」
「自由のために共に生き、共に死のう!*9
そのころ、修道院の庭には、貴族たちがいた。エボリ公女が美しいサラセンの宮殿の庭で、という歌を歌う。このエボリ公女は、実はカルロに惚れている。スペイン王妃になったエリザベッタのもとへ、ロドリーゴがカルロからの面会を求める手紙を渡す。現れたカルロは、エリザベッタに、自分のフランドル行きを国王に推薦して欲しいと話す。ついでに、エリザベッタへの想いを捨て切れていないことも打ち明けてしまう。エリザベッタがカルロの申し出を拒絶すると、カルロは走り去ってしまう*10
入れ違いに、国王が入場。お付の人すらいないエリザベッタに不信を感じ、ロドリーゴに妻と息子の様子を探らせる*11。ついでに、宗教裁判長には気をつけろ、といやにしつこくロドリーゴに忠告する*12


3幕
深夜に王妃の庭園でお会いしたいという手紙をもらったカルロは、エリザベッタからの呼び出しだと想い、待ち受ける。
「あっ!エリザベッタだ!呼び出してくれてありがとう!僕は君の事を心から愛してるよ!」
「まあうれしい!」
「げぇっ!エボリ公女!ちょっとタイム!今のなし!」
「まあ酷い!どういうこと!?」
やってきたのはエボリ公女だったのだ。それにしても、この勘違いは酷い。
さらに、エボリ公女は、勘違いの相手が王妃であることに気付いてしまう。このことを王に暴露すると言うエボリ公女に、たまたま通りかかったロドリーゴが、暴露するならお前を殺すと脅す。カルロがなだめてひとまずその場は収まる*13


異端を火刑に処する日、広場には見物の市民が押しかけ、王と王妃が現れる*14。そこへ、カルロがフランドルからの使節団をつれてくる。慈悲を求める使節団を、フィリッポ2世は冷たくあしらう。重ねて、カルロがフランドルの統治を自分に任せるよう願うが、それも叶わない。怒ったカルロは父に剣を抜くが捕らえられてしまう。フィリッポ2世はこと宗教問題に関しては頑なな姿勢です。緞帳にスペインの紋章が書かれていたのですが、本物を若干アレンジし、目立つ位置にグラナダの紋章を移していたのは、レコンキスタを意識させることで宗教対立を客に意識させたかったのですかね。
あと、NHKホールの間口の都合なのでしょうけれど、合唱や役者が勢ぞろいするために、窮屈な構図に感じました。なんというか、何人詰め込めるか巻尺を片手にがんばった感じ。


4幕:王の居室
エリザベッタが自分のことを愛していないと、王は気づいていた。どうすればよいのか、王は悩む。
宗教裁判長が呼び出される*15。王はまた、自分に刃向かった罪で幽閉されている息子の処遇にも悩んでいたのだ。実の息子を殺したくは無いが、反逆の罪は死刑と決まっている。宗教裁判長は、迷わず死刑を勧める。
「息子の死刑は、なんとかならんのでしょうか」
「ならばなぜ、私を呼び出したのだ?」
この辺りの低音重唱は、私自身も低声部の人なので大好きです。また、宗教裁判長がロドリーゴを引き渡すよう要求し、王が重臣として彼を守ろうとするなど、宗教と国家の葛藤というのもありますね。
宗教裁判長が去ると、エリザベッタが入ってくる。どうやら自分の宝石箱が無いらしい。
「なくなった宝石箱というのはこれかね?」
「なぜ、あなたが・・・!」
「中身は何かね?おや!カルロの肖像ではないか!」
激昂したフィリッポ2世にエリザベッタは失神する。
騒ぎを駆けつけ、ロドリーゴとエボリ公女が駆けつける。ロドリーゴはこの状況を打開するには自らの死が必要と感じ、エボリ公女は罪悪感に打ちひしがれる。
二人きりになり、エボリ公女はエリザベッタに、宝石箱を盗み、王に告げ口したのは自分だと打ち明ける。さらに、王に誘惑されたとも語る。エリザベッタは、エボリ公女に、翌朝宮廷を去るよう告げ、去る。
一人残されたエボリ公女は、自らの思い上がりが招いた不幸を呪う。しかし、ふと王の机を見るとそこにはカルロの死刑執行の書類があるではないか。カルロを救い出すことを、せめてもの罪滅ぼしにしようと心に決め、エボリ公女は舞台を去る*16
場面は変わって牢獄。ロドリーゴがやってきて、フランドル反乱の責任を自分が負うので、カルロは脱出してフランドルに行くよう伝える。そして、衛兵に射殺される。
ロドリーゴはカルロに、修道院でエリザベッタが待っていると伝え、息絶える。


5幕
修道院でカルロはエリザベッタに会う。共にフランドルへ行こうと彼女に説くが、エリザベッタは拒絶し、現世ではなく死後、天国で会おうと伝える。彼女は現世では、あくまでスペイン王妃なのだ。
二人が別れを告げたとき、追っ手がやってくる。
絶体絶命の瞬間、突如、先帝カルロ5世の霊が現れ、カルロを連れ去って幕切れ。


音楽的な面白さは、ヴェルディなので非常に楽しいです。また、父子による三角関係、宗教対立、宗教と政治、女性の地位といった人間関係の複雑な物語は、見ていて飽きません*17。もっとも、5時間近いのでお尻は痛くなります。あとオケが時おり、世界最高峰と銘打つ割には足並みが乱れたように感じられたのだけど、オケの中にも人知れず代打が居たのかしら。それともやっぱり代打の指揮者だと息が合わないのかしら。
とはいえ、学生券で定価の3分の1で行けたので、十分元は取れた、という感じ。震災や原発の不安にも関わらずツアーしてくれたことを考えれば、感謝しこそすれ、文句を言うべきではない、と私は感じました。定価で行った人が同じ結論に至るかは知らない。

*1:集積回路の微細化が進むと、電線同士が近づきすぎてコンデンサみたいになってしまうので、電線が持つ容量はどれくらいかを調べる研究

*2:似ている遺伝子同士をグループ分けして相関関係を分かりやすくする話

*3:集積回路は、本来平面上に作るものだけど上下方向にも作れればもっと高性能に出来るよね!て研究

*4:ドン・カルロ役のヨンフン・リーは高音が強く、エリザベッタ役のポプラフスカヤが中低音域の綺麗な歌手なせいか、イマイチ意気投合してない気が。まあ、代打二人だから仕方ないか

*5:オペラにありがちなムチャな展開。

*6:1,2幕の間には休憩が無かったので、森→修道院→庭と場面転換が続いた。庭の石門と修道院の鉄扉は吊り物で、修道院と庭の壁は同一のものを照明で切り替えという具合。見てると勉強になる。

*7:薄暗い舞台で黒服の修道士が歌うと、幽霊が歌っているようで怖い

*8:ロドリーゴ役のホロストフスキーはずっと声がイマイチ出ていなかった。背格好と演技はよかったんだけど。

*9:オペラにありがちなムチャな(ry

*10:合唱はストップモーションなのだが、かなり大変そうだった。

*11:フィリッポ2世役のルネ・パーペは貫禄の父王であった。

*12:王様がロドリーゴを圧倒してしまっていたので、ホロストフスキーは調子でないんだろうなぁ。

*13:3重唱はカッコいいのだが、役者同士の相性の都合か、イマイチ一体感がなかった。いや、うまいんだけどね。

*14:この辺りの音楽はヴェルディの味がもろに出ていて大変格好いい

*15:一目見てサンタクロースだと思ってしまった。役者が若いのか、身のこなしも時おり敏捷になるので、なおのことサンタクロースに見える。声に張りがあるので、頑迷な印象がよく感じられた。

*16:エボリ公女役のグバノヴァはよかったと思う。

*17:んが、最終的な解決とかはわりとぶん投げる。