レミゼラブル

映画のレ・ミゼラブルを見てきました。ユゴーの小説をミュージカルにしたものをさらに映画化するという企画で、あちこちで宣伝しています。これを見て来たので、その感想をば。ネタバレを含むので改行。













元々長い小説をミュージカル用に縮めたものを、3時間とはいえ映画用にさらに縮めたものなので、原作にはあった難しい人間関係や複雑な心理といったものがだいぶ捨象され、主要な登場人物は悪人は悪人、善人は善人といったきっぱりした人物造形になっています。また、舞台上では実現しえないような大迫力のCGやアクションも多用されており、すべてのセリフが歌になっている以外は普通の映画のようです。セリフが歌になっているところは観客へ与える影響が大きく、人物の動作や心理が自然に認識されます。ミュージカルでなければあからさますぎると言われかねないほどストレートに伝わってくるのです。
大抵、直接的なセリフというのは、映画で見るととてもうるさいものなのですが、それを中和するかのように物語世界が非現実的な感覚を持たせています。
例えば、最初の造船所で主人公のジャン・バルジャンが強制労働をさせられている場面では、嵐の日の大破した帆船を他の囚人と曳かされていますし、テナルディエ夫妻の宿屋の歌でも歌詞の通り怪しげな肉を全部まとめて挽肉にしています。嵐のシーンの明かりのつくりや挽肉を気持ち悪く見せる様子などはいかにもイギリスの映画ですね。こういった「現実にはありえないと思われる理不尽な世界」を作る事で「人間らしい感情」を強く出しても理不尽さに打ち勝とうとする印象が生まれてくるのです。自分を縛り付ける理不尽なものからの解放は誰しもが希求するものであり、誰しもが理不尽と思う世界設定が、その気持ちを強く呼び覚ますのです。
配役では、ヒュー・ジャックマンラッセル・クロウといった、主人公を演じる役者が歌だけでなくよく演技できており、サウンド・オブ・ミュージックよりもはるかに映画らしい映画になって良かったです。あと、サシャ・バロン・コーエンとヘレナ・ボナム=カーターにテナルディエ夫妻をやらせたのは慧眼だったと思います。コメディシーンを怖いものなしにやりすぎな状態にしたおかげで、重苦しいストーリーに疲れずに済みました。
企画から20年近くかけて作成した大作にふさわしい良い映画でした。