統計と経済と法律の話

ある町にパン屋と数学者がいた。
数学者は毎日パン屋で、一斤100グラムと書かれているパンを買っていく。
ある日、数学者は自分が食べているパンの量が、最近少ないような気がした。
そこで、毎日買ってくるパンの重さを量り始めた。
6ヵ月後、数学者は自分が毎日買ってきているパンの重量が、90グラムを平均とした正規分布に沿っていることを知った。
怒った数学者はパン屋に怒鳴り込んだ。
「お前の店では一斤100グラムと書いておきながら、平均90グラムのパンを売りつけているじゃないか!」
パン屋は慌てて数学者に謝り、次回からきちんと100グラムのパンを作ると約束した。
しかし、その後でパン屋は考えた。
「正直に100グラムのパンを作ったら儲けが減ってしまう。よし、作ったパンの中から100グラム以上のパンを一斤見つけ、そいつをあの数学者に売りつけよう」



問1:パン屋は数学者を誤魔化せるか。
問2:問1をふまえ、この話の続きはどうなるか。







問1の答え:パン屋は数学者を誤魔化せない。平均90グラムのパンのうちから100グラムのパンだけを取り出しても、その分布は90グラムのときの分布から100グラム以下の部分を切り捨てた分布と一致してしまうから。


問2の答え:数学者はパン屋が改心していないことを知る。これは数学者が「本当に一斤100グラムのパンを作っているか」を疑問に思っている限りは避けられない。
一方で、このパン屋の判断は数学者にとっては得である。なぜなら、パン屋が改心した場合、数学者は一斤平均100グラムのパンを得ることになるが、改心せずにごまかすという判断によって同じ値段で平均が100グラム以上のパンを手に入れることになったから。
つまり、他の客にとってパン屋の判断は損であるが、数学者にとっては、パン屋が心変わりして自分にも平均100グラム以下になるようパンを売りつけだしたりしない限り、あるいはパン屋が誤魔化していることが世間に知られてしまわない限り、このままにしておいた方がよいのだ。
問題は、法律がこの数学者の行為に対してどのような罰を与えるか、ばれる可能性はどれくらいかであって、これはその町に適用されている法律やらなにやらを調べてみないと分からない。
よって、ばれるリスクが低く、ばれても大した罰を受けないのならば、数学者は分かっていて見過ごす可能性が高い、というのがこの話の続きと考えられる。


以上の問題は、民族ジョークのサイトかどこかで見つけたうろ覚えの話を元ネタとしていますが、落ちは「数学者はパン屋のごまかしを見破り、パン屋はお縄になった」でした。社会的な正義としては正しいのですが、自分にとって得な判断をパン屋がしてくれたにもかかわらず、それをフイにしてしまう数学者はどうなんでしょうね。