お茶大オペラ(書き直し)

あらすじと舞台の転換が余りに手抜きで、どこがどう面白かったのか読み返した本人すらちっとも分からなかったので、書き直し。


私のコーディングの手際の悪さも手伝って全く進展のない研究から逃避するべいということで、お茶大の文化祭である徽音祭で公演されていたオペラ「みづち」を見てきました。行きがけに秋葉原で導線を買ったり、神保町で本を買ったりとかもしましたが、その辺のレビューは明日以降のブログに回すとし、あくまで今日のお題はオペラ「みづち」に絞りたいと思います。同行した人は何度かお茶大オペラを聴きに行ったことがあるそうですが、近年まれに見る出来の良さだったそうです。私は初めてだったので分かりませんが、だとしたら当たりを引けた私は非常に運が良い。


あらすじはこんな感じ。

序曲に始まり、昔々の世界へ遡ります。後に出てくる殿様(吾嬬重藤: あずまのしげとう)が戦場で烏帽子を被り、装束に家紋が描かれているので、鎌倉時代から室町時代のどこかという設定でしょう。細かいけど。
舞台上の白いスクリーンにCGで銀河系から地球に飛び込む映像が流れて、なかなかダイナミック。
[第一幕]
ある村は渇水に悩まされていました。
村長と村人たちの話し合いによると、一つ井戸を掘れば二つ枯れるといった有様です。作物も一部を残して他を諦め、できたものを皆で分け合い、何とか生き残って雨が降るのをまとう、と村長は言います。ただ雨を待つばかりにはいかないので、雨乞いの祭りをしようということになり、村人たちの話し合いは解散となります。
その帰り道、主人公の小太郎は、謎の老人に雲を呼び雨を降らせる「みづち」の存在を教えられ、美しい村を取り戻すために独り旅立つことにしました。小太郎の姉の八重は、孤児の二人を育ててくれたこの村のために旅立つのだから、小太郎のいない寂しさにも耐える、と歌い、やがて二人の二重唱となります。ここで出てくる「美しいふるさとよ」の旋律は、なかなか綺麗な曲で、このオペラのそこかしこで現れます。
小太郎が旅立つころ、村の雨乞いの祭りも始まります。
この祭りの音楽が一幕のフィナーレになっており、舞台上に上げられた和太鼓のダイナミックなビートが印象的。「ひしゃく星、天の川から水汲んで、村に雨を降らせておくれ」みたいな歌詞と共に、電飾で描かれた北斗七星や天の川が上手く場面を演出していました。
村人たちの踊りも揃っていてかっこよかったです。手ぬぐい一本でここまで踊れるというのは驚きました。あと、水戸のご老公に似ている村長がノリノリで面白かったです。


[第二幕]
葉の付いた枝を持った黒子が10人ほど登場し、小太郎の行く手を阻みます。シーン的には、小太郎の苦難の旅といったところでしょうか。休憩の最中に出会った鳥たちに道案内された小太郎は、黒姫という謎の女と出会います。ピッコロ(フルートだったかな?)と小太郎の口笛が掛け合うというのは、良いアイディアだと思いました。実際に大きなホールで口笛を吹くと、音が飛ばないでしょうけれど。
小太郎は、彼女から「みづち」は悪い部族に捕らえられてしまったために国中で雨が降らないのだと教えられます。この世の一大事を知った小太郎に、黒姫は、(弓使いに秀でた)吾嬬重藤を頼ること、笹の葉に含めた水を飲ませれば弱った「みづち」を救えると助言し、刀を与えます。うこの黒姫、部下に水を組ませては自分でひたすら飲み続けるなど、非常に偉そうな割には、小太郎にあっさり問題の原因から解決法まで全部教えてしまうのですが、一体どういう位置づけなのでしょう?後の幕にも出番はないし、カットされたのでしょうか?


[第三幕]
<一場>
小太郎は旅の途上で3人の天狗と出会い、修行を受けます。このくだりは全部オケだけで、役者は演技だけ。木刀のぶつかる音を打楽器が出しているのですが、もう少し練習して役者と演奏者が息を合わせると良かったと思います。役者も腰が引けた感じになり、音もためらいがちになりで弱く感じられました。でも、かっこいい曲が良かったからいいや。
<二場>
で、天狗のシーンが終わると、本作のメインヒロインと思われる夕月姫がようやく登場します。
実は彼女と小太郎は相思相愛であり、彼女は自分が織り上げた「みづち」の命を助ける「水藻の衣」に、自分の髪を忍ばせようかという話を、乳母の志斐(: しい)に話します。なんでも「愛する人の衣に自分の髪を忍ばせればその人は必ず帰って来る」のだそうです。
いつの間に恋愛関係になったのか、などという野暮な突っ込みが出掛かりましたが、多分カットがあったのでしょう。それよりも確かその衣は「みづち」のためだから、仮に小太郎に帰ってきて欲しくて縫いこんでも意味がないような。
<三場>
いよいよ合戦の日。
重藤と共にいざ出陣と言う段になって、夕月姫が現れ、自分もお供します的な流れになります。なんでも、夕月姫は男勝りの力を持つのだとか。髪を編みこむのくだりのしおらしさとは対照的です。
姫の父親である重藤もあっさり許可し、配下の武将も「姫がいれば百人力」と喜びます。配下の武将の台詞はおべんちゃらだとしても、父親の放任主義はこれいかに?あえて弁護するとしたら、父親としても後のない戦いですし、娘の強さを知ってはいたけれど、最初から娘に頼るようでは体裁が悪いので、娘が自主的に参加するのを待っていたと言うところでしょうか。
合戦のシーンは、黒子が構える盾に武者たちがよっていくという演技。少人数で、しかも狭い舞台上で無闇とちゃんばらをやるよりは、こういった演出の方が様になってよいです。
なんやかんやあって合戦についてきた夕月姫と一緒に小太郎は「みづち」を救出します。
「みづち」の正体は最初に出てきた謎の老人でした。
衰弱しきっていた「みづち」は、二人の介抱を受けて元気になるといきなりお説教モードに突入し、地球環境等についてこんこんと説諭した後、沼のそこで深い眠りに付きました。
小太郎の故郷の村は再び平和を取り戻し、フィナーレは「美しいふるさとよ」の大合唱で大団円。

えーと、プロットの不自然さ*1は、おそらくカット等によるもので、多分全曲聴けば未回収ぶん投げの伏線とか唐突に登場するヒロインなどの問題も解決するんだと思います。まあ、オペラファンでなくとも脳内補完のスキルさえ持っていれば「きっとこの辺は何かあったんだろう」で済むレベルです。地球環境についてお説教を垂れる「みづち」だけは非常に余計でしたが、作者の世代的にこの手のストレートすぎるメッセージを入れたくなるものなのでしょうか*2


曲のほうも、序曲のヨナ抜きから始まり外形を手堅く設計したために現代臭が無く、一方で随所に工夫がなされているので聴いていて飽きません。楽器ごとの見せ場も格好よく作られていました。
また、歌詞も理解しやすく、全員がしっかり歌っていたので男声がいないとは思えないほどキチンと聴けました。迷い無くまっすぐ歌っている感じが伝わってくるのがまた嬉しい。合唱は(オケもですが)一人がもにょもにょすると全体がもにょもにょして聞こえるので、一丸というのは非常に大切です。
オーケストラもきちっと仕上がっており、歌をうまく引き立てるだけではなく、オケとしてもきちんと見せ場を意識し、話の筋を作り上げていました。音楽だけでなく、シーンごとの話の細かい展開までも把握している感じがしました。
そんな感じに出演者全員がノリにノッていたので、観劇する側も作品世界に上手く入り込めて楽しめました。いや、大当たり大当たり。


こういう公演が毎回続くようなら、来年以降もぜひ見に行きたいです。

*1:誤解を恐れずに言うならば、某Jの付く週刊少年漫画雑誌であえなく20週で打ち切りになった漫画並みにプロットがちぐはぐ。

*2:作者渾身のシーンがもっとも不要と言うのも皮肉な話ですが。