早野先生の宿題(Ver. 2.0)

3/20午前の修正答案。良く考えたら「その場の知識」を求められているわけではない*1ので、きちんと資料に当たって回答しても構わないと考えられる。というわけで「調べた結果」を追加。

Q1. 今,半減期8日のI-131原子核が10000個あったとします.8日後に何個残っているか答えなさい.最初の数が2個の場合はどうでしょう?

A1. 具体的に何個残っているかは数えてみないと分からない。
半減期8日」というのは「放射性物質放射線を放って別の物質に変わるまでの平均的な期間」というほどの意味である。
直感的には、10000個のI-131原子核は、8日後に5000個だけ残っていそうな気がするが、あくまで確率の問題なので、一つも放射線を放たないことだってありうるし、逆に全部放射線を放って別物になっている可能性もある。
つまり、1万個のI-131があったとき、8日後に何個残っているかは数えてみないと分からない。ただし、5000個の辺りをピークにした0〜10000までの確率分布になる。
2個のときも同様。

Q2. ヨウ素(I-131)が検出されたと報じられています.I-131であることを確認する原理を,100字以内で述べよ.

「調べた結果」:ゲルマニウム半導体検出器という、ガンマ線のスペクトルを検出する装置があるらしい。つまり、ガンマ線のスペクトルを調べてI-131を特定すればよい。
A2. 放射性物質は、それぞれ固有のエネルギーを持つガンマ線を複数種類放出するので、試料から放出されるガンマ線のスペクトルを検出しスペクトルの比率がI-131固有のものと一致しているか調べる。(93字)

Q3. I-131を検出するのに必要な測定器と,その測定原理について述べよ

「調べた結果」:空間γ線スペクトル測定法(リンク先PDF)という環境放射能放射線というサイトのPDFファイルを見つけた*2。これの21ページを見ると、ゲルマニウム半導体検出器というのはフォトダイオードとかと同じ原理らしい*3
A3. ゲルマニウム半導体検出器を使う。この検出器の内部には、pn接合された半導体が入っている。pn接合した半導体には逆バイアス電圧がかかっている。逆バイアス電圧がかかっているpn接合半導体では、半導体のp側とn側の間には電流が流れない。ここに、半導体のバンドギャップを越えるだけのエネルギーを持つ電磁波が飛来すると、エネルギーを受け取った瞬間だけ暗電流と呼ばれる電流が流れる。そこで、この電流を増幅して検波すれば電磁波の飛来を検知できる。これがゲルマニウム半導体検出器の動作原理。ゲルマニウムを使っているのは、放射線の波長で暗電流を流しやすいから。

Q4. I-131が出す放射線の種類をすべて述べよ.I-131であることが確認できる放射線の種類とそのエネルギーを述べよ.

A4.「調べた結果」ベータ線,0.248(2.1%), 0.334(7.27%), 0.606(89.9%);ガンマ線,0.0802 (2.62%), 0.284 (6.14%), 0.365 (81.7%), 0.637 (7.17%)・・・[MeV]が放出されている。ガンマ線のエネルギーの値と比率は恐らくI-131固有。
参考:原子力情報資料室

Q5. 放射性物質の崩壊とPoisson分布の関係について簡潔に述べよ.

A5. 放射性物質の崩壊については「ある原子核が一定時間当たりに崩壊する確率」を考えることが根本にある。すなわち、確率の世界あると同時に離散の世界である。また、一個の原子核について考えるのではなく、多数の原子核の集合を考える必要がある。これはすなわちポアソン過程なので、うまいことパラメータをつければポアソン分布に近似できる。

Q6. 半減期Tの放射性物質の個数Nの時間変化N(t)をあらわす微分方程式を即答せよ.

A6. 初期の個数をN(0)とすると、N(t) = N(0)*(2^(-t/T))となる。
よって、
dN(t)/dt = -N(0)*log2*(2^(-t/T))/T
このうち、N(0)*(2^(-t/T))はN(t)なので、
dN(t)/dt = -N(t)*log2/T
また、残った定数(log2/T)は壊変定数っていってλで表すらしい。


Q7. 天然放射線による被曝量が,その人が住んでいる地域によって異なる理由を,簡潔に答えなさい.

A7. 地質、土壌などによって含有する放射性物質の量が異なるため、地域性がある。ウラン鉱山や温泉地とかでなくても、カリウムK-40や炭素C-14の含有比は、その土地が形成された年代によって違うはず。他にも、極地方なら宇宙線が多いとかも考えられる。

Q8. 測定値15020 Bq/kg などと報じられていますが,同じサンプルを,その直後にもう一度測定するとどうなると考えられるか,簡潔に記しなさい.(参考

A8. Bq(ベクレル)は、一秒間に崩壊する原子の数なので、この場合は一キロの物体中に含まれる放射性物質のうち15020個の原子が一秒間に崩壊している、ということになる。これは「原子の個数」としてみた場合ごくごく微量*4なので、直後に観測しなおせば大差ない値が得られると思われる*5

Q9. 報道やWebで使われている単位, Sv, Sv/h, Gy, Gy/h, Bq, Bq/kgについて,簡潔に説明してください.

A9. ベクレル(Bq)は「1秒間に崩壊する原子核の個数」
Bq/kgは「試料1キログラム内で1秒間に崩壊する原子核の個数」
グレイ(Gy)は「1キログラムに照射された放射線のエネルギー量(ジュール単位)」
Gy/hは「1時間当たりに観測された試料1キログラムに照射された放射線のエネルギー量(ジュール単位)」
シーベルト(Sv)は「放射線を生物が吸収した量」であり「Sv=放射線荷重係数*Gy」となる。係数は放射線の種類により異なる。ガンマ線なら1。
Sv/hは「1時間当たりに放射線を生物が吸収した量」であり「Sv=放射線荷重係数*Gy」となる。係数は放射線の種類により異なる。ガンマ線なら1。
参考:一昨日の日記

Q10. I-131の体内被曝が懸念されています.平常時,日本人の体の中に,放射性物質がどのくらいあり,それによる体内被曝量はどのくらいか,即答してください.

A10. 一昨日聞いた限りでは、体内被曝が年間被曝量の1/3くらいで、主にカリウムK-40, 4000Bq/kgや炭素C-14, 2500Bq/kg(数字はうろ覚え)による被曝が主だったはず。目下信頼できる資料探し中だがウェブじゃノイズが多くてきついか*6

Q11. 報じられている「1キログラム当たり1万5020ベクレル」とは,何をあらわす単位か,即答してください.(参考

A11. 試料1キログラム内で1秒間に崩壊する原子核の個数が1万5020個、ということ。

Q12. 「放射性ヨウ素が1キログラム当たり1万5020ベクレル」と「放射性セシウムも524ベクレル」という報道があります.ヨウ素セシウムの違いにも触れ,健康への影響の有無を適確に説明しなさい.
参考

A12. 「調べた結果」厚生労働省の原子力施設等の防災対策について(リンク先PDF)の23ページに「放射性ヨウ素は、人が吸入又は汚染された飲食物を摂取することにより、身体に取り込まれると、甲状腺に選択的に集積するため、放射線の内部被ばくによる甲状腺がん等の晩発性影響を発生させる可能性がある。」と書かれている。また、セシウム半減期が30年と長く生物濃縮が起こる(リンク先PDF)らしい。
健康への影響は目下試料探し中なので以下予想。
白血球の減少が起きるのは年間400mSvの被曝であり、これを基準に考えると、1秒間に0.3[μSv/s]被曝すると健康に影響があると考えられる。
すなわち1秒間に体内で体重1[kg]当たり0.3[μJ/kg]放射線が放出すされていると健康に影響があると考えられる。
ヨウ素I-131が放出するのは主に0.606[MeV]のベータ線と0.365[MeV]のガンマ線なので、簡単のためにI-131は両者を足して1[MeV]の放射線を放出し、体内のI-131は増減しないすると考える*7
1[MeV]=1.6*10^(−13)[J]なので、このガンマ線だけで0.3[μJ/kg]を得るには、一秒間に1.9*10^6[/s]回ガンマ線が放出されねばならない。すなわち、健康に悪影響があるのは、体重1[kg]あたりを考えると、1.9*10^6[Bq/kg]ということになる。ちなみに検出された放射線はほうれん草1[kg]から検出されたヨウ素で1.5*10^4[Bq/kg]らしい。
すげぇ乱暴な議論をすれば、このほうれん草だけを体重の100倍食い続けてれば、ヨウ素が発する放射線で白血球が減るかもしれない。その前に別の理由で具合が悪くなりそうだけど。っていうか計算合ってるのか不安になるなぁ。
セシウムでも同様。

Q13. 体内被曝が疑われる方があったとします.体内被曝の有無と,その程度を判定するにはどうすればよいでしょう.

A13. 「調べた結果」緊急被曝医療研修のウェブサイトに書いてあることを参考に。
排泄物に含まれる放射性物質放射線量を測定するか、人体から発せられるガンマ線を測定することで推定するらしい。I-131やCs-137は最初のほうに書いたガンマ線測定器で調べられるらしい。

Q14. I-131,なぜ牛乳なのか.牛肉はどうか.即答してください.

A14. 「調べた結果」厚生労働省の原子力施設等の防災対策について(リンク先PDF)の付属資料12を読むと「穀類、肉類等を除いたのは、放射性ヨウ素半減期が短く、これらの食品においては、食品中への蓄積や人体への移行の程度が小さいからである。」と書かれている。つまり、牛が放射性物質を摂取してから人に移るまでの期間が、乳は短く肉は長いため、差異が儲けられているらしい*8。あとは、蓄積のしやすさとかも関係しているらしいが、定量的な資料は不明。




まだところどころあやふや。しかし、きちんと調べるとそれなりの試料出てくるというのがびっくり。あと、放射線の検出器がフォトダイオードだったとはしらなんだ*9
蛇足:ガンマ線を検出する装置がフォトダイオードと同じだとヒントを出せば、電子工学科学部生ならQ1〜Q6は解ける、はず。

*1:即答を求められている問題を除く

*2:.go.jpだからいかがわしくはないはず

*3:とゆーことはこれ、むしろ電気系が調べて答えられなかったらどうするのって話だったな。

*4:1モルが6*10^23だから、1キログラム中にI-131が1ミリグラム存在したとしても14桁くらい少ない

*5:計測や統計の誤差があるので全く同じ値が出るわけではないはず。

*6:チェルノブイリがー」が多い

*7:つまり、崩壊した分だけI-131を食べ続けると考える。

*8:実際、肉は寝かせたりする。

*9:ガンマ線は電磁波なんだから当然っちゃ当然なんだけどさ