粘土の権威

アメリカはパデュー大学から、Cliff T. Johnston 先生という方がお越しになり、農学部で講演されるということで野次馬してきました。この方は粘土の権威だそうで、私自身は農学とも土木とも縁が無いのですが、講演のお題が「放射性セシウムの拡散に対する粘土の役割」と聞いてふと行ってみる気になったのです。
福島原発から放出された主要な放射性物質のうち、比較的半減期が長いものに、ヨウ素I-131とセシウムCs-137が挙げられます。I-131の方は半減期が8日*1で、事故から3ヶ月近く経った今では、もう殆ど放射線源としては機能していません。一方のCs-137は、半減期が30年もあり、現在観測される放射線の多くはこれの寄与によるものです。つまり、福島の住民が集団避難を強いられたり、あるいは学校で校庭の土壌を入れ替えたりしているのは、このCs-137せい。
敵を知り己を知れば百戦危うからずというわけで、土壌を入れ替えるにしろ、上に土をかぶせるにしろ、土中の標的であるCs-137がどう振舞うかを、この先生が解説してくださいました。


一部聞き漏らしや聞き間違いがあったやも知れませんが、ご容赦ください。ジョンストン先生は論文を引いて説明してくださいましたが、ここでは割愛。


セシウムはナトリウムやカリウムの親戚なので、水に溶けるときに1荷の陽イオンになります。従って、これが土のミネラル(カリウムとかカルシウム)と入れ替わる形で土に残留します。セシウムは、カリウムやカルシウムに比べて陰イオンと結合しやすいために、カリウムやカルシウムを追い出してそこに居座るのだそうです。
さて、粘土というのは、土の分子*2が様々な形に結合して出来ています。その分子同士の結合は、均一ではなくところどころ隙間のある構造をしており、その隙間がセシウムにぴったりなのだそうです。従って、一度粘土に捕らえられたセシウムは、中々抜けることが出来ないのだそうです。
以上をまとめると、セシウムは粘土に捕らわれやすく、しかも一度セシウムを取り込んだ粘土はセシウムを放出しない、ということになります。この現象は土の酸性度や成分などは、特に関係なく一般的なようです。ただし、福島の土について、個別のデータは無いとのことです。一つ気になるのは、植物が水と一緒に吸収する場合とのことでした。
ジョンストン先生はそこから先についてはあまり語られませんでしたが、粘土ごと流出したりしない限りは、セシウムは粘土から動かないので、土壌を入れ替えるなり上に土をかぶせるなりという処置は、妥当なように私は感じました。無論、粘土ごと流れていってしまう事態は困りますし、上にかぶせた土が流れてしまっても困ります。粘土質ではない土壌での振舞いは詳らかではないというのも心残りです。


こういった知見が、実際の対策にも役立てられるといいですね。

*1:放射性物質って、数秒持てば長い方らしい。

*2:KX, CaX2などと書いてあるので、何か特定の分子なのではなく、色んな元素が様々にくっついてるのだと思う。